第5話「公式イベントとギルドマスター」

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 一瞬、元の世界に戻って来てしまったのかと錯覚しそうになる光景。この世界の住人とは顔立ちも服装も違う、明らかに俺と同じ高校生と思われる人だかりの中に、俺はいた。  俺と同じく黒い石碑のようなものに腰掛けたままの者、現実を受け入れられず黒い石碑に横たわったままの者、立ち上がり右往左往する者、慣れた様子で談笑する者達、一所に集まって話し合う集団。恐らく300人に近い数の高校生達が、学校のグラウンドのようなこの場所に集っていた。  これは、俺がやっていたMMORPGで毎週水曜日の午後3時頃に見られる光景とよく似ている。夏休み等の平日休みの日、水曜日の定期メンテナンスによって強制的にログアウトされ、メンテナンス終了直後に飛び込むようにログインした際、同じことを考えていた数百人の仲間達で街が溢れ返っていた記憶と重なる。  全プレイヤーの前に攻略不可能の魔獣が現れ、強制的に死に戻りを体験し、この世界では死んでもこの場所で生き返ることができるのだと身をもって知ることができる。これはそういうイベントだったのだ。 「ここが、本当のはじまりの街……ってとこか」  身体に何か異常がないか、手探りで確認。背痛の一番の原因だった二本の剣を確認して安堵するが、シンキ内の魔石が半分に減っていてギョッとする。 「ま、デスペナとしちゃあ経験値兼所持金が半減ってのは無難な線だよな」  石碑に腰掛けたまま両手でこの不思議な黒いベッドを撫でていると、すべすべとした感触の中に一箇所、文字が刻まれているのを俺の触覚は捉えた。
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