第5話「公式イベントとギルドマスター」

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 これがベッドだとすると、枕のある位置。俺が頭を乗せて横たわっていた位置に、刻まれていた。 【ヤマダ タイチ】  俺の名前に間違いない。もしかして、どの石碑が誰の物なのか決まっているということなのだろうか。周りを見渡すと、隣の石碑の上で胡坐をかいている男と目が合った。 「よう。やっと会えたな、お隣さん」  男の口調、容姿を確認して、俺は心臓がドキリと警戒の動悸を発するのを感じた。自信に満ちた喋り方。張りがあり聞き取りやすい声質。余裕のある、人を安心させる笑み。高い身長、服の上からでも分かる見栄えの良い体格。この情報だけをとっても、こいつが俺とは住む世界の違う人間であることが窺い知れた。勿論、住む世界というのはこのヴァニラと日本のような本当の異世界という意味ではない。この男は、間違いなく一軍だ。それもただクラスでヒエラルキーが上というだけではない。学級委員長とか生徒会長とかを推薦で任されてしまいそうな、優等生的人気者タイプだ。しかも、身に纏っている赤いラインの入った黒いブレザーは、都内屈指の進学校の制服だ。現代日本において、俺がこの男に敵うものはゲーム以外ないであろうことが、その僅かなセリフだけで確信できてしまった。  やっぱこのブレザーカッケェなぁ、俺の理想のカラーリングだ。  憧れの制服を着た見るからにリア充な男に話しかけられ、俺は咄嗟に返す言葉が見つからず口を開けたまま数秒固まってしまった。
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