135人が本棚に入れています
本棚に追加
「――ほう。つまり、本来のMMORPGなら、パーティーには回復役のヒーラーが必要不可欠ってことか。この世界じゃその役割は必要なさそうだな」
流石は進学校。俺の拙い会話スキルでも、矢吹はすぐにゲームのセオリーを理解してくれるので、会話が思ったよりスムーズに進んだ。
「ああ。何せ全員が固有スキルしか持ってないんだろ?ヒーラーに適したスキルなんてそうそう無さそうだ」
「魔獣と戦うのを避ける奴が多いから、まだスキル?を会得している奴の方が少ないが、未だに能力が被ったって話は聞かないな」
「それじゃあ、能力と武器の形状に応じて近接アタッカー、遠隔アタッカー、タンク、サポーターって役に分けるのが精々だなぁ」
「タンクって何だ?」
「敵の注意を引き攻撃を全て請け負う役だ。ただ、ゲームじゃタンク役は攻撃をある程度受けても死なないようにできてたが、ここじゃそうもいかない。ヒットポイントなんて概念はなく、頭か心臓を潰されれば一撃で死ぬ」
俺の解説に、矢吹は腕を組んで真剣に考える素振りを見せる。
「よっぽど大きな盾を持つか、或いは魔獣の攻撃を防げるようなスキルを持った奴がいれば…」
「ちょっと変則的だが、回避タンクってのもある。敵の注意を引き、とにかく攻撃を避けまくるんだ。この世界じゃそっちの方が実用的かもしれない」
「単なる囮ってわけか」
「ゲームみたいに明確にタゲやヘイトの概念があるわけじゃないだろうしな。むしろ結果的に狙われた奴が囮となって回避に専念し、その間にパーティー全員で一斉に攻撃。また別の奴が狙われればそいつがスイッチするって形が良いかもな」
いつの間にか情報交換というよりも戦略会議のようになってしまっていることに気づき、ハッと顔を上げると、矢吹が俺の顔を覗き込んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!