135人が本棚に入れています
本棚に追加
「来い化け物」
まさか、俺のことを言ったのか。一瞬そう勘違いをしたが、すぐにその言葉の意図を理解した。その抑揚のない声。言い慣れて、言葉の意味を大して考えていないような言い方。そして、籠手型シンキから出る魔法陣。これが、矢吹のスキル発動ワードなのだ。
刹那、放たれる直線状の閃光。咄嗟に左手の魔剣を抜き、その軌道に刃を当てると、可視の光線は霧散し、空気中にキラキラとした粒子を散らす。どうやらこの魔剣、敵の攻撃に干渉する力があるらしい。
「おいおいおい、サプライズが過ぎるぜリア充よ」
手からビームを出す。そういうスキルなのだと思った。しかし、そのビームの根本にあったのは、バランスボール程の大きさで二本の角を持つ魔獣だった。
「ジジ…」
ビームクワガタは矢吹の手からボトリと地面に落ち、次弾を充填し始めた。
「させるかっ」
散々避けた攻撃だ。タイミングは解っている。前方へと跳躍し、左手の魔剣で斬りつける。
「死ね」
それも、俺に対しての言葉ではないらしい。まるで矢吹の命令に従うように、クワガタはその生命活動を即座に終了し、俺の攻撃が当たる直前に黒い結晶となって砕け、光の玉が矢吹のシンキへと吸い込まれた。
倒した魔獣の魔石を用いて、魔獣を召喚、行動どころか生死すらも自在に操る能力。しかも、出した魔石の回収も楽々。
「チートじゃねぇかそんなもんっ」
俺の罵倒に、矢吹は首を捻る。
最初のコメントを投稿しよう!