135人が本棚に入れています
本棚に追加
「オラァッ」
一本背負い。漫画とかオリンピックの映像とかではよく見るけれど、実際あんな簡単に人が投げられるもんかね。そんな風に思っていたけれど、実際受けてみると面白いくらい軽快に、俺の体は浮き上がり、そしてすぐに地面に叩きつけられた。いや、面白くはないな。断じて、この状況は面白くない。
反転した天と地。天を見上げているのだと実感する前に、矢吹のよく通る聞き取りやすい声が頭に響いた。
「どうだ、山田。俺の相棒になる気はまだあるか?」
それは、甘い誘いでもあった。俺はもう負け犬だ。それは今決まった。しかし、それを受け入れ、屈辱から目を逸らし続け、矢吹の天下を支えるのか。恐らく、この高校生のコミュニティの中ではそれなりのヒエラルキーを得ることができるだろう。俺が今まで一度も見ることのできなかった景色が見られるだろう。そんなものを甘い誘いと感じるということは、俺にもリア充に憧れる気持ちがあったということだ。
「あるわけねぇだろ、バーカ」
「だよな」
背中を向ける矢吹。俺の手にはまだ剣が握られている。俺の足にはまだ立ち上がる力がある。だというのに背を向けるのか、馬鹿め。という気持ちはなかったわけではないが、それが叶うよりも前に、見慣れた大きな鎌が空から降ってきた。俺が斬り落とさなかった方の鎌だ。
俺は二度目の死を体験すると共に、矢吹の執念を理解した。奴は、そうまでして俺がギルドマスターとして名乗りを上げるのを阻止したかったのだ。このゲームをクリアするには、自分が高校生を率いることこそが一番の近道だと、信じて疑わなかった。その妨げとなりそうな行動をした俺は、速やかに排除されたというわけだ。
最初のコメントを投稿しよう!