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目が覚めると、俺は再び石碑の上に横たわっていた。相変わらず痛い背中。まだ高い太陽。そして少し距離を置いて聴こえる大衆の喧噪。起き上がると、石碑が300個並んでいる広場の前、学校のグラウンドに見立てるのなら、ちょうど朝礼台のありそうな位置に、人だかりができているのが見えた。
そこに誰が立っているのかは、見えないけれど容易に想像ができた。それを取り囲む者、少し距離を置いて見守る者、石碑に腰掛けたままの者、それぞれ思いや考え、立場の違う高校生が、見渡す限り全員、そちらの方向を見ていた。
恐らく左前から五十音順に並んでいる石碑。俺の名字は山田なので、当然一番後ろの列にある。あのド派手な戦闘を繰り広げた後でも、復活した俺の姿に気付く者はおらず、その注目はあの男一人に集中したようだ。
「これより、俺達高校生のコミュニティを“ギルド”と呼称する」
その男、矢吹雅臣の張り上げた声が、驚くことに俺の所までも微かに届いた。
「そして、俺がその代表、ギルドマスターとなる。反論のある者はいるか?」
あの戦いで、いかにも強そうな二本の剣を持ち、ド派手で強力なスキルを放つ俺という高校生を容易く退けて見せた男。戦闘力は申し分なし。魔獣を扱うことで統率力も垣間見えた。この堂々とした喋り、声量、そして行動力。どれをとっても文句のつけようがない。周囲は、賛同を表明するための歓声と拍手に包まれた。
「俺は先陣を駆けるタンクであり、敵を屠るアタッカーでもあり、ギルドを精神的に支えるサポーターでもある。それが、俺の役割。それが、ギルドマスターだ!このふざけたゲームは、一刻も早くこの俺、矢吹雅臣が終わらせてみせる!」
しばらく鳴り止まない拍手。この公式イベントでほぼ全員が殺され、本当にクリアなんてできるのかと誰もが抱えていた不安を、矢吹はその力と行動を以て振り払ってみせたのだ。
「それ、俺のやつやん」
俺は両の掌を黒い石碑にぴったり付けたまま、小さく呟いたのだった。
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