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宿屋の外の路地には、数人の男女が身構えるようにして立っていた。その内の一人、人だかりに対して俺とは反対側で、俺と同じく駆け寄ってきた様子の、フード付きマントを被った人物と目が合った。小柄な体格、幼い目鼻立ち。彼女が若い女性であると気づき、なんとなく気まずくて目を逸らすと、事件の進展を窺い知れた。
「こ、このっ、はなれろっ」
騒ぎの中心で身悶えするおじさんが、大きく腕を振って腰や胸、背中の辺りを順に振り払った。すると、「プギィッ」という小動物のような鳴き声が響き、おじさんの体からボトボトと音を立てて小さな多数の影が零れ落ちた。
「ピギイイイィ」
それは一見、一頭身にデフォルメされたハムスターのようだった。頬袋を膨らませて何かを蓄えており、その無理してる感と共に滲み出る可愛さは、ペットショップで見たことのあるハムスターそのものだった。しかし、先刻聞いた通り、こいつらが魔獣であるという事実を、俺はこの直後目の当たりにする。
「あわわわわっ」
「きゃあああ」
視野を広げて見てみると、身悶えしていたのはおじさんだけでなく、近くにいるおばさんにおじいさん、小さな女の子までもが、服の下でもぞもぞと動き回る何かを振り払おうと身を捩っていた。
その、子供の拳程しかない小さな魔獣達は、頬袋を膨らませて町人の衣服から這い出ると、四肢の間に隠していた皮膜を広げ、人から人へと飛び移り、頬袋を更に膨らませ続けていた。
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