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何だ、何をする気だ。あの刀が何尺何寸あるのか知らないが、どう多目に見積もっても建物を飛び越えようというモモンガに届くだけの刃渡りはないはずだ。ならば、その意図はスキル以外にない。あの子は、あの距離でも届く遠距離攻撃スキルを持っているというのか。
「……止まれ止まれ止まれ」
彼女の唇が動き続けていることに気付き、意識を集中すると、その呟きが耳に入った。そして同時に、俺は困惑した。
彼女の声が俺に届いた時には、そこに彼女の姿はなかったのだから。
「ど、どこに…」
目で追う、という言葉は当てはまらないだろう。もしやと思うまでもなく、他にあてがなく、空中のモモンガに目を向けた。そしてそこに彼女の姿を見つけた。
刃は俺の目に映ることなく、体の前で納刀したままの姿勢で、彼女は屋根の上へと着地した。
当のモモンガはというと、その後ろで今まさに砕け散ったところで、一拍置いて光の玉が彼女の刀へと吸い込まれ、仰々しい紋章の刻まれた大きな魔石だけが地面に落ちる。あれこそ、頬袋に入っていたという魔獣避け用の魔石だろう。
「すげえ」
こちらに振り向き、フードが取れて露になった彼女の童顔を、俺は口をポカンと開けながら見つめた。
緩やかに癖がついた、ショートボブの黒髪。中学生と言われても違和感のない幼い目鼻立ちと、小さな顔の輪郭。低い身長、華奢な体躯。マントの下から見える黒のセーラー服。
とても神速の抜刀術を繰り出せるとは思えないその姿こそ、彼女が俺と同じ高校生である証だった。
強い。あんな技を繰り出されては、例え俺でも矢吹でも、手も足も出せずに瞬殺されるだろう。
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