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「…っこいしょ」
スカートを押さえ、天使は屋根から舞い降りた。美しい。強く気高い天使。リアルの女子に惚れることなんてないと信じていたのに、こんなところで出会えるなんて。よりによってこんな、リアルだかファンタジーだかわけのわからない世界で、こんな好みド真ん中の女子に出会えるなんて。
「はぁ……またやっちゃったなぁ……」
天使は刀の柄を抱き締めるように背を丸め、膝から崩れ落ちた。
「ど、どしたっ!?どっか痛めたか?」
慌てて駆け寄る俺に、天使は顔を上げて潤んだ目を向けた。そして、再度目を伏せて首を横に振る。
「ううん、だいじょぶ。ちょっと、懐が寒くて」
「な、なんだ?寒いのか?寒気がするのか?」
日本の暦通りの麗らかな春の陽気の中、俺には一切の寒気も感じられない。まさか、スキル発動の後遺症か何かだろうか。
「いーから。そういうのじゃないから。念のために予備の魔石も取ってあるし」
腰の巾着袋を叩きながら立ち上がると、膝についた砂を払い、顔を上げて改めて俺を見上げた。
目が合った。どうしよう。女子と面と向かって話すなんて何年振りだろう。魔石がどうしたんだろう。せっかく可愛い顔してるのに気怠い表情だ。だがそれがいい。
「とりあえず自己紹介しとこっか。黒野藤花。そっちは?」
気怠い表情のまま、抑揚のない声で彼女は言った。
黒野藤花さんか。心に刻もう、永遠に。
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