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「錬也は強いよ。あのイベントでも死ななかったみたいだし、私がやられたあのエリアボスも倒したはずだし、もっとずっと強くなってるはず。そうそう死ぬことはないと思う」
「そ、そうか。そりゃあ、頼もしいな」
黒野さんのその言葉と表情が、更に俺の劣等感を刺激する。ネットゲーマーというやつは、人が持っている装備やスキルを自分が持っていないことが悔しくて、夜も眠らずプレイするような人種なのだ。
二つ目のスキル、俺も欲しいな。
「ねぇねぇとうかっち」
黒野さんのフードの裾をちょんちょんと引くメリーさんに目を向けると、彼女が指差す方に一人の男性が立っていた。丁寧に整えられた髭を揉み上げから顎に繋げて生やした、ガタイの良い初老の男性だった。こちらに用があって話しかけるタイミングを窺っている佇まいだったため要件を尋ねると、彼は町長であると名乗り、この事件解決の礼を述べた。
何かクエスト報酬でも貰えるのかと思いきや、彼からもたらされたのは金やアイテムではなく、俺が今まさに欲しいと思っていたものの情報だった。
「今回の騒ぎは、魔獣避けの魔石を新しいものに交換する際、一瞬の隙を突かれ、あの魔獣“セルラット”に魔石を盗まれたことが発端でした。セルラットは、実は少し前から頻繁に目撃されるようになったのです。原因は解っています。“王都ニーベルン”を中心に“ヴァニラ”の東西南北を結ぶ“十字街道”の南側、サウパも通るこの“南林道”を覆う唯一の森林地帯、“サウパの森”に最近復活した筆頭魔獣“セルグリズ”が魔力を蓄えるため放つ配下の魔獣こそ、件の泥棒魔獣“セルラット”なのです」
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