手紙

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 それは、今までやりとりした幼馴染との手紙の束だった。  一年ごとにまとめた束が何年分も散らばる。でも、最後の年の束の厚さが意識に引っかかり、私はそれを手に取った。  彼女が事故で亡くったなのは去年の春。その年の新年から数えて、もらった手紙は二通だけだ。  その筈なのに、手紙の束は軽く二十通を超えている。しかも一通ずつがやたらと分厚い。  何かを間違えて束ねてしまったのだろうか。  確認のため、手紙の差出人を見る。全部幼馴染の引っ越し先の住所だ。  さらに確認のため、消印を見る。全部去年の春以降だ。  何が何だか判らず、大慌てで中を確認した。  便せんに見慣れた文字が綴られている。間違いなく彼女の字だ。  内容は、亡くなる前同様の、夢と希望に満ち溢れた文面だった。でも、それが少しずつ変化していく。  どうして返事をくれないのですか。  何か、怒らせるようなことをしましたか。  もし怒らせたなら謝るので返事を下さい。  返事を下さい。  返事を。  返事を…。  待っているのにどうして返事をくれないの?  返事をして。  返事を頂戴よ!  返事をよこせ!  手紙を書け!  手紙をよこせぇぇぇぇ!!!!!  文字が、文面が狂っていく。夢や希望に満ちていた内容は、罵倒と怨嗟に変わっていく。  最後の一通は、宛名と差出人こそ普通だったけれど、便せんいっぱいに、赤いのペンでびっしりと、『酷い』と『もういい』の二つの文字が書き殴られていた。  誰かのいたずらだと思いたい。でも、そうだとしても、私はこの手紙の束を、もらった覚えも読んだ覚えもまとめた覚えもないのだ。  どうしてこんな物が存在しているのか。訳も判らず床にへたり込んでいると、玄関の方から物音がした。  おそるおそるそちらへ向かうと、扉の前の床に一通の手紙が落ちていた。  施錠はしてある。チェーンもかけてある。手紙が通る隙間なんて存在しない。  なのに手紙が落ちている。今度は宛先も差出人も歪んだ赤色の文字になった手紙が、早く読めというように私に存在を主張する。  開くのが怖い。  今度はどんな罵りが綴られているのか。あるいは…。  もういいと、見切りをつけた言葉を投げつけながら、それでもまだ送られてきた手紙。怖くて怖くてたまらないけれど、放置することはどうしてもできず、私は震える手で幼馴染からの手紙を開けた。 手紙…完
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