第1章 愛しい、ひげ

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純の親とうちの親、他にも何人かいて、お世話になった保育園に制服姿を見せに行こうって話になったんだ。 そういうのけっこう田舎だから地元愛みたいなのが強くて、祭りとか、行事ごとは皆参加が当たり前の地区だったから。 親は浮かれてて、皆はダルそうにしてたけど、俺だけはもしかしたら岳先生に会えるかもとか、淡い期待をして保育園に顔を出した。 そして、顔を見た瞬間、これが恋だって確信した。 すげぇかっこよくて、すげぇ人。 もうとにかく、ドキドキして仕方のない人が、今、目の前にいて、前よりもかっこよくて、ヒゲとか生えてて、たまんねぇ。 初めて見る岳先生の先生じゃない時にどうにかなりそう。 「お前は? 上で宴会?」 頷いた。 ドキドキしすぎて言葉が出てこない。 「そっか。皆でワイワイやってんだな。楽しんで来いよ」 ポンポンって、温かいものが頭に触れる。 やめろよ。 頭とか撫でるなよ。 もうサクラ組の子どもじゃねぇんだから。 無邪気に笑うどころか、先生は何気なく撫でただけだろうけど、こっちはそうじゃねぇんだから。 「夕飯って思ったんだけどなぁ、今日は、無理そうだな」 え? 何? 帰っちゃうのかよ。 「二十歳、おめでとうな。何も祝いとか用意してねぇけど、上でたんまり酒飲んでた来いよ」 ちょ、待ってよ。 「あっ! あのっ! 岳先生!」 声がやっと出た。 「んー?」 やばい。 すげぇ優しい声になんか、恋心が一瞬でもっと膨らんでいく。 「せ、先生も来いよ。上、サクラ組の奴ら他にもいっぱいいるし、その、祝って、けよ」 ようやく声が出た。 と、思ったら、突拍子もないことを言っている自分がいた。
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