第2章 岳先生は人気者

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びっくり、なんてしねぇよ。 岳先生はいつだって人気だろ。 カッコよくて、優しくて気さくで、そんでもって今日はヒゲまで生えてて渋いし。 渋いのに、くしゃっと笑うんだぞ。 くしゃっと。 そんなの人気になって当たり前だ。 「でもさ、勇人がマジでまだあの人のこと好きなのにもびっくりした」 「バッ! でかい声で言うなよ!」 「誰の話かなんてわかんないって」 「……そうだけど」 あ、ほら、また、笑った。 あの笑顔、すげぇ和むし、なんていうの? 楽しそうだろ? そばにいて、あの笑顔見てるだけで楽しくなれる。いいなぁ、やっぱ、隣に座りてぇなぁ。 「もう何年?」 「十五年」 「十五年、ほぼ会わないのに、なんでそんなにずっと片想いしてられるのか、俺、全然わかんない」 「俺も……」 俺もわかんねぇよ。 会ってないのに、なんでこんなに好きなのかわかったらいいのに。 でも、たとえばさ、祭りとか、地区の行事とかあると自然と目が周囲を見渡してる。 どこかにいるかもしれないって。 会えたことなんて一度もないけど。祭りの度にキョロキョロ探して、でもやっぱり会えなくて、地区の祭りなのに、どんだけ世界って広いんだよとか文句を零したくなる。 高二の夏に花火大会に行ったんだ。 俺はバスケ部で、同じ部の三年の先輩と。花火大会に皆で行こうぜって、うちのバスケ部はけっこう仲が良くて、三年生はもう引退間近だったから皆で騒ごうって。 その時の部長だった三年生のことがけっこういいなぁなんて思ってたんだ。 でも、マジで「いいなぁ」ってだけだった。 その時、すげぇ痛感した。 俺は岳先生が好きなんだなって。だって、花火大会、先輩含め、皆で楽しくガヤガヤしつつも、俺はやっぱり薄暗い人混みの中、目を凝らして探していたから。 中学の入学式の時以来、顔も見ていなかったのに、岳先生以外に好きだって思える人は現れなかった。やっぱり、あんなふうにドキドキする人は、いなかった。 「良い先生だし、優しいし、人気なのはわかるけどさぁ」 こんなふうに足元がふわふわ浮つくくらい、見てるだけで幸せだなぁって、岳先生以外に思ったことなかった。
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