第3章 隣の席、いいですか?

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なんだろうって、見ているフリをしながら、今日限定のヒゲのある岳先生を記憶にしっかり焼き付けておこうって思った。 だって、中学の入学式から二十歳までの八年間、一回も会えなかったんだ。 次、会えるかもしれないのは、また八年後? もしくはどこかで保育園の卒園児で同窓会とかしたら来てくれるのか? いや、もう会えないかもしんねぇじゃん。 世界は狭いようで、すげぇ広いんだから。 「あれは……あぁ、三年前か。そっか三年も前になんのか。駅前でやる花火大会、そこで勇人を見かけたんだ」 「え?」 「純じゃねぇ友達と一緒に、いたの、見かけたんだ」 「……」 マジで? 俺が岳先生に会えないかな、と思っていた花火大会で、実は会えてたのかよ。 部活の皆で騒いでても、それでも先生がどこかにいないかなぁって探してた、花火大会。 「だから、これで三回目だ」 「……」 「あ、そう考えるとけっこうすごいだろ? 中学、高校、社会人、ほら」 ほらって、何? すごすぎて言葉がまた出てこなくなるじゃん。 あとは小学生かぁ、なんて、過去に遡れないけど、全部の世代の俺に遭遇しそこねたって、冗談でも悔しがる先生に胸んところが締め付けられるくらいに なんか、感動してる。 「すげ……」 「勇人?」 すげぇ、嬉しくて、ただ、すれ違った程度だっただろうに、先生は、「あ、あれ、自分が受け持っていたことのある子どもだ」って思っただけだったのに それでも、今、俺は世界一幸せだって叫びたい。 外、極寒だろうけど、このまま居酒屋飛び出して走り回りたい。 「二十歳、おめでとう、勇人」 嬉しくて仕方がない。
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