第3章 隣の席、いいですか?

6/6
前へ
/420ページ
次へ
俺だって、そう思ってたくせに。 「……先生」 男同士だから、絶対にありえないから、言うつもりなんて、本当にこれっぽっちもなかったくせに。 それなのに、この宴会がずっと終わらなかったらいいのにって、けっこう本気で願った。 岳先生の全部を覚えてたいなって思いながら、もっと見てたいって考えてた。 もっと見てたいけど、それは無理だから、せめて記憶しておきたいって。 「んー、吐きそうか? 吐けるんなら吐いちまえ。すっきりするぞ」 好きだって。 言うつもりなんて、これっぽっちもなかったんだ。 だって、会うことがまずないんだから、言えるわけがなかった。でもさ。 「勇人?」 でも、会えたら、こんなふうに話をいっぱいしたらさ。 「俺」 溢れるじゃん。 「好きです……岳先生の……こと」 気持ちが溢れて、外に気が付いた時にはもう。 岳先生はすげぇ目を丸くして、俺を昔と変わらずまっすぐに見つめて、数秒後、だったと思う。 もうよくわかんねぇ。 ただ、一言。 「ありがとう」 そう、言った。
/420ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4717人が本棚に入れています
本棚に追加