第39章 静かな帰り道

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「もう保育園違ってるって言ってたから、岳は接点ないのかもだけど」 「?」 岳は覚えてないかもな。 伊賀先生。この前会ったんだ。 偶然、病院でインフルでヘロヘロになっていた俺はそこで伊賀先生に会った。 もう苗字が変わってて伊賀先生じゃなくなってたけど、でも、俺のことを覚えててくれて、なんかちょっと嬉しかったんだ。 そういうの覚えててもらえると嬉しいじゃん。 「伊賀先生、優しそうで、少し違うけど、岳みたいに人気あった先生」 「……」 「あの人と岳って仲良くなれそう。どっちも明るくて楽しくて、優しいし」 岳はもちろんそこにカッコよくて強くて豪快っていうのがプラスされるけどさ。 「やっぱ良い人だったよ。先生してた時も優しくて好きだったけど、インフルが治ったからって、娘さん連れてきててさ。優しいお母さんって感じだった」 「……」 「岳?」 カラカラって自転車のタイヤが回る音だけが聞こえていた。 珍しく何も話さないからどうしたのかなって。 「岳?」 なんで、そんなにびっくりした顔してんの? まるで、さっき飛び入りで乱入してきた岳に目を丸くして、心臓止まった俺みたいな顔。 「岳?」 なんで、俺、こんなん訊いたんだろう。 なんで、今、この遅いタイミングで訊いたんだろう。 びっくりしたままの岳は言葉を探してて、何をどう言おうかってちょうど良さそうな言葉を見つける前に、もう俺のアパートに到着してしまった。 もっと早くに訊けばよかった。 そしたら、岳は言葉を見つけられたのに。もっと別の日に話せばよかった。 明日からまた仕事で早く寝ないといけない今じゃなかったらよかった。 そもそも訊かなきゃよかったんだ。 きっと岳と伊賀先生には何かあったのに。 別に岳にとっての初めては俺だけじゃないってわかってたのに。 「あ、あー、もしかして……」 「付き合ってた頃がある。もうずいぶん昔のことだ」 ちゃんとわかってたのに、訊いたらすげぇ、心がざわついた。
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