第2章 岳先生は人気者

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先生の腕に掴まってグルグル回ってもらう。 それは園庭にあるどんな遊具よりも大人気の遊びだった。 順番待ちの行列ができるくらいの。 男の先生っていうのも珍しかったし、すげぇ楽しいし、サクラ組とかそんなの関係なく園児全員に好かれていた。 いいなぁ、俺もグルグルしてもらいたいなぁ、って、岳先生を眺めながら思ってたっけ。 今、この光景を眺めているとあの時の感覚が蘇ってくる。 「勇人、めっちゃ顔に出しすぎ」 「だって」 俺が誘ったのに。 っつうか、隣に座ってるの、田中じゃん。 あいつ、俺らと同じ保育園じゃなかっただろ。なんで、岳先生の隣陣取ってんだ。 でも、そうなんだ。 岳先生って、すげぇ、なんなんだろ。 笑顔か? あの、くしゃっと笑う笑顔が良いのか? いつでもどこでも大人気、あの笑顔につられて皆も笑顔になる。 「癒しスポット、岳先生……」 「え? 何? 勇人、なんか言った?」 「……別に」 ボソッと話したら、純がもっとちゃんと話せと耳を傾ける。 俺は岳先生が離れたところに座っていることに拗ねて、口をつぐんだ。 なんであんなに人気なんだよ。 優しくて、力持ちって金太郎かよ。 皆が岳先生の腕にぶら下がろうといつでも群がっているのを純(じゅん)と一緒に眺めていた。 俺たちは皆みたいに無邪気に群がることができなかったんだ。 少し、他の子とは違っていたから。 俺も、純も同性愛者だったから。 もちろん五歳児でそんなことを明確にわかっていたわけじゃない。 でも、もう年長にもなれば、男女で結婚の約束とかしてみたり、あの子が好きだ、とかそういうのが出てくる。 男の子は自然と女の子を、女の子は男の子を。 でも、俺と純は女の子に好きだって感情が沸かなくて、でも、その理由なんて俺たちにはわかるわけもなくて なんとなく他の子と距離があるっつうか、距離を置いていたっつうか。 ふたりで一緒にこじんまりと遊んでいることが多かった。
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