4714人が本棚に入れています
本棚に追加
先生の腕に掴まってグルグル回ってもらう。
それは園庭にあるどんな遊具よりも大人気の遊びだった。
順番待ちの行列ができるくらいの。
男の先生っていうのも珍しかったし、すげぇ楽しいし、サクラ組とかそんなの関係なく園児全員に好かれていた。
いいなぁ、俺もグルグルしてもらいたいなぁ、って、岳先生を眺めながら思ってたっけ。
今、この光景を眺めているとあの時の感覚が蘇ってくる。
「勇人、めっちゃ顔に出しすぎ」
「だって」
俺が誘ったのに。
っつうか、隣に座ってるの、田中じゃん。
あいつ、俺らと同じ保育園じゃなかっただろ。なんで、岳先生の隣陣取ってんだ。
でも、そうなんだ。
岳先生って、すげぇ、なんなんだろ。
笑顔か?
あの、くしゃっと笑う笑顔が良いのか?
いつでもどこでも大人気、あの笑顔につられて皆も笑顔になる。
「癒しスポット、岳先生……」
「え? 何? 勇人、なんか言った?」
「……別に」
ボソッと話したら、純がもっとちゃんと話せと耳を傾ける。
俺は岳先生が離れたところに座っていることに拗ねて、口をつぐんだ。
なんであんなに人気なんだよ。
優しくて、力持ちって金太郎かよ。
皆が岳先生の腕にぶら下がろうといつでも群がっているのを純(じゅん)と一緒に眺めていた。
俺たちは皆みたいに無邪気に群がることができなかったんだ。
少し、他の子とは違っていたから。
俺も、純も同性愛者だったから。
もちろん五歳児でそんなことを明確にわかっていたわけじゃない。
でも、もう年長にもなれば、男女で結婚の約束とかしてみたり、あの子が好きだ、とかそういうのが出てくる。
男の子は自然と女の子を、女の子は男の子を。
でも、俺と純は女の子に好きだって感情が沸かなくて、でも、その理由なんて俺たちにはわかるわけもなくて
なんとなく他の子と距離があるっつうか、距離を置いていたっつうか。
ふたりで一緒にこじんまりと遊んでいることが多かった。
最初のコメントを投稿しよう!