第2章 岳先生は人気者

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混ざらないわけじゃない。 いじめられてるわけでもない。 でも、なんとなく感じる、どこか自分たちと、皆の違い。 それが、岳先生に飛びつくことを遠慮させる。 でも、岳先生は俺たちのこともやっぱ、ちゃんと見てくれていて、向こうから手招いてくれた。腕にぶら下がらせてくれたんだ。 ――振り落とされるなよーっ! グルグル回る視界は少し眩暈がするくらい。 足が地面についてない。 ふわふわ浮いていて、風が全身を通り抜けていく感じにドキドキした。 そして、そのドキドキが恋になった。 今もすげぇドキドキしてる。 成人式の宴会に混ざってよって、誘うなんて自分でもかなり驚いた。 まさか、そんなこと言えるなんてって。 岳先生はそりゃ遠慮するだろ。 でもどうせどこの居酒屋も今日は満員だろ? それに、保育園の先生じゃねぇけど、中学の時の「先生」ならいる。俺は岳先生にお世話になったし、純だけじゃなく、岳先生を知っている奴なら何人もいる。絶対に、絶対に大歓迎だからって。 必死に理由並べて、食い下がったんだ。 こんな機会滅多にないからさ。 保育園に用事なんてねぇし、向こうにしてみたら世話した園児のひとりでしかないだろうし。 これから先、こんなふうに岳先生のそばにいられることなんてないだろうから、今日だけしかこんなラッキーは起きないから、必死になった。 ――じゃあ、お言葉に甘えて。 そう言って、足を一歩店の中に進めてくれた時、めちゃくちゃ嬉しかったんだ。 誘ったところで隣に座ることはできなかったけど。 保育園の時と一緒だ。皆に囲まれている岳先生を遠くで眺めて、あの囲んでいる中のひとりでいいからなりたいなぁって。 「……いいの? 勇人」 思うだけ。 「いいよ、ここで岳先生見てられたら、それでいい」 本当は全然良くない。 全然、隣に座りたい。 でも、無理だろ。無邪気に先生のとこなんて、それこそいけねぇよ。 だって、俺、男だし、男だけど、先生のこと好きだし。変に意識して、きっと怪しまれる。周りにあれだけ人がいるのに、そこを割り込むことなんてできそうにない。 「やっぱり人気者だねぇ。この中でも普通に大人気になれちゃう岳先生にはびっくりだよ」 純が小さなグラスの中の水みたいに透明な日本酒をくいっと飲んだ。
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