1350人が本棚に入れています
本棚に追加
「相続したものを使うなり 貸すなり 売るなり好きにしたらいいよ。私は何も言わないから」
そう言葉にすると 渉夢も喜んでくれた。
土地って行ったって東京にある訳ではない。
聞いた事のある土地の名前だけど はっきりと言って使い道があるのかどうかもわからない。
その時は 売ったっていい。
私は 母と一緒に暮らした 想い出のあるあの家が手に入ればそれだけでよかった。
◇◇◇◇◇◇
渉夢と恭司先生と別れて マンションに帰って来た。
「拓海さん お願いがあります」
カフェテーブルに座って コーヒーを出した後口を開いた。
「わかってる。実家に住みたいんだろう?」
「・・・・・・はい。駄目ですか?」
「いいに決まってるだろう?そこだったら 作曲家さんの家だったんだから防音設備も完璧だろうし 何よりも 辰哉の両親もお隣だろう?」
「はい」
はいと頷いたはいいけど 私はこのマンションに引っ越してからは お世話になったって言うのに たっちゃんの両親のいる家には行ってなかった。
もしかしたら出所した継母がいるかもしれないと思うと 近づけなかった。
私の気持ちが 言わなくても伝わってくれていたようで
たっちゃんの両親は 私を家に呼ぶことはなくて
このマンションの方に遊びに来てくれている。
けど 今度からは私の元に戻って来たんだ。
堂々とあそこに帰れる。
渉夢が放棄してくれたお陰だ。
最初のコメントを投稿しよう!