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「――ようっ。君が店長の娘さんかな?」
二年前の夏。
絵里香が十四歳の時の事。
両親が離婚し、母親に連れられて再婚した相手と暮らす家を――つまり新しい父親と大喧嘩をして飛び出した中学二年生の夏休み。
数日は友人宅を転々としたが、やがて行く当てがなくなると、仕方なく隣町に引っ越した本当の父親を頼る事にした。
「……誰ですか?」
父親の携帯に夕方頃連絡をすると、家の鍵を取りに職場まで来て欲しいと言われる。
鍵がないとどうにもならないので、絵里香は仕方なく峠の山頂にあるレストランまでバスで向かった。
だが指定された通りレストランの前でいくら待っていても父親は現れず、二十分経ったところで絵里香は痺れを切らして店内に入る。
――店長は只今、外出しております。
フリフリの付いたかわいい制服のウェイトレスに告げられ、諦めて店から出た。
また外で待ちぼうけ――
夕景に溶け込む茜色にきらめく湖面を呆然と見下ろしていた時、遊覧船の汽笛だろうか、どこからか野太い音が響くと、まるで導かれるように湖のほとりへと向かった。
――ハア……避けられてるのかな。
浜辺に置かれたベンチに座り、ひとり強い寂寥感を味わっていた時、背後からふと声を掛けられたのだ。
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