193人が本棚に入れています
本棚に追加
「ならバスで帰る。……バイバイ」
「それはお勧めしないな。……バスはあと三十分は来ないぜ?」
――えっ、ウソ? ちょっとマジで……
「怖いんだけど――」
と泣きそうになる絵里香に、春樹は心で軽く笑ってから救いの手を差し伸べる。
「だから俺と一緒に来ればいいんだよ。バイクで来てるんだ、後ろに乗れよ。麓に下りて飯食ったら家まで送るから。それで問題ないだろ?」
春樹は店長と約束したのだ。今日のラストまでのウェイター業の代わりに、一日父親代行業を引き受けると。
それもバイト代まで出る徹底ぶりだ。――まあ仕事で面倒を見るなど多感な年頃の少女には話せない事だが。
春樹はこのレストランで雇われてまだ数ヶ月しか経っていないが、その真面目で温厚な人柄に店長に大いに気に入られ、息子同然にかわいがられていた。
でなければ、ひとり娘を初対面の春樹に任せたりはしないだろう。
つまり春樹は店長お墨付きの好青年なのだが――
絵里香の瞳には不審の色しかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!