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外から観察しているうちに、いつの間にか翔子の真横に来てしまった春樹が興奮気味に話す。二人向き合うようにして立つと、翔子が不敵な笑みを浮かべた。
「どう、乗りたい?」
「……乗りたい」
はい、よろしい。そう頷くと「じゃあどうぞ」と囁いた。春樹が翔子をどけるようにしてインプレッサのドアノブに手を掛ける。
「ちょっと、こっちじゃないよ。……アッチ。まずはナビに座ってちょうだい」
えっ、何で? と言いたそうな春樹に、翔子はこう付け加えた。
「まずはインプレッサの走らせ方のお手本を見せるから。……その後、存分に走ってちょうだい」
食いついた餌を急に取り上げられたしまった春樹は、ちょっとガッカりしながらナビへと向かう。そしてドアを開けると、張り出したロールケージに頭を打ち付けながらシートに座った。
――これは……この車は一体何なんだ。
座った瞬間にわかる『一般車』ではないレーシーな空気。センターコンソールには後付けのメーターやスイッチが並び、振り返ると真後ろにロールケージの鉄パイプが大きくクロスしており、更に後方のリアウィンドウのところでもバーがクロスしていた。そしてロールケージは鉄板むき出しの内装のあちこちに溶接されていて――
――鳥かごと言うより監獄だな。
そんな事を思うとゴクリ、車から押し寄せてくる無言のプレッシャーの様なものを感じ、緊張のあまりツバを飲み込んだ。
「マジでラリーカーだな。戦うために作られた車特有のビリビリと張り詰めたオーラを感じるよ……本物だ」
翔子も運転席に乗り込むと「へー、オーラを感じるんだ、でもこれはまだユルい方よ」と飄々と話しながらカチャカチャと音をさせて六点式のシートベルトを締め始めた。
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