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「――うっぎゃーっ、と、止めてくれぇぇ――っ!」
「ひぃぎゃぁぁぁぁ――っ!」
「ぎゅえぇぇぇ――っ!」
これ全部春樹の悲鳴である。当然――
「あーっ、うるさいっ! もう、何よ、えっ、何なのよ!」
勢いよくパーキングを出たインプレッサは、続くコーナーに全開で突っ込んで行った。一つめ、二つめ……三つめとコーナをドリフトでクリアする度に春樹がナビで悲鳴を上げるのだ。――なんとも情けない顔で。
理由はこうだ。『身体をホールドできない!』だそうだ。翔子に言わせれば「バカッ!」の一言だが。仕方なくストレートに入ったところで車を路肩に停める。そして懇切丁寧に六点式のシートベルトの正しい締め方をレクチャーした。
「――もう……わかった? 常識だからね! しっかり締めればどこかに掴まる必要なんて無いの! ……いっつもいい加減にベルトを締めてるからこうなるのよ!」
翔子の言う通りだ。いつもプラップラの状態で四点のシートベルトを締めているからこうなるのだ。あのまま頭上のロールケージを掴んでいたら、間違いなく車体とバーの間に指を挟んで痛い思いをしただろう。
肩の辺りは少しだけキツめに、腰は思いっきり強く――股のところは緩めに六点を締めると、翔子はもう一度全開のダウンヒルアタックを開始した。今度は春樹も大丈夫。両手が遊んでいてもドリフトの横Gに耐えられた。
するとようやく翔子の走りを冷静に分析できるようになる。――カウンターの舵角が小さい。
それにカウンターを戻すタイミグも早いし、コーナーの出口でのスロットルオンのタイミングも早い。つまり、春樹よりもコンパクトなラインを通っているのだ。あれこれ分析しながらインプレッサの挙動を感じ、ロードスターとの違いを考えながら、あたかも自分がドライブしているかのようにイメージしながら走っていると、峠の終盤、五連続ヘアピンに入った。ここで自分との大きな違いを見つける。
「なあ、そんなにサイドブレーキを使うものなのか?」
「えっ? 何、何だって? ……聞いてなかった!」
だからサイドブレーキだってば! ――と言っているそばから翔子はキュッとレバーを引き上げる。低速コーナーでは定石とも言えるスピンターンのきっかけ作りだ。
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