SS2 決意

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「そっか……春樹は兄と同じ事を言うのね。……そっか」  翔子は小さく頷きなら、不思議と温かい気持ちが胸の中に満ちてくる。もうずいぶんと味わった事の無い心地良さだった。  インプレッサは満天の星空の下を軽快に駆け抜けて行く。山はシンと静まり返り、森に生きる者達は皆夢の中だろう。  だが二人はデートでのんびりとドライブをしてる訳ではない。春樹の力強い想いにクラリときた翔子だが、すぐに気を取り直して山頂のパーキングまでインプレッサを走らせた。そして―― 「――さあ交代よ。……春樹の本気、見せてちょうだい」  おうよ。  短く答えたのが本気の証。――本人はそう思っている。  教わった通り『正しく』六点式のシートベルトを締めると、春樹は初めてインプレッサのステアリングを握った。これが因果の開始点。そう――運命の歯車が今、動き始める。         *** 「うぎゃぁぁ――っ、ぶ、ブレーキブレーキッ!」 「む、無理――ッ! 絶対、無理! 膨らむっ、崖に落ちるーっ!」  ギャー……と、翔子が絶叫する。いやしまくりだ。もう涙とかジャブジャブ出ている。まさか、いきなりの一本目から全開で一つめのコーナーに突っ込むとは思ってもいなかったのだ。  確かに『本気がみたい』とは言ったが、それは二、三本走ってからの話しだ。――と翔子はそのつもりだったのだが、春樹は違った。  じゃあ、ただの無謀な走りなのか? ――もちろん違う。先ほどインプレッサの一挙手一投足を全身で感じながら、ナビに座って翔子と一緒に頭の中で峠を攻めていたのだ。  だから最初の一本は二本目と同じ。――そう、それほどまでに感覚を研ぎ澄ませて走りのイメージを強固に作り上げていたのだ。これこそ英二が『天才』と称した春樹の鋭い感性。そして高い分析能力――更にはその具現力。  そもそも最初の三コーナーまでは翔子の言う『全開』ではなく、これでも様子見をしていたのだ。そして四コーナーの手前から一気に脳内を加速させ、フルスロットルで飛び込んだのだ。  そこからの春樹の走りは、後に翔子によってこう語られる。――死を前にするとアレが見えるって言うでしょ? ……何だっけ? ああ、あれよ、幼少期のいい思い出が走馬燈のように流れたわ。  つまりとてつもなく怖かったのだ。その訳は――
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