SS2 決意

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「――ほらよ」  恐怖のダウンヒルが終わり、麓のパーキングにインプレッサを入れると、二人はまた昨夜のベンチに座っていた。今夜は昨夜のリクエストの通り、甘くてミルキーなMAXコーヒーを買ってくる。それを渡すと、春樹はブラックコーヒーを手に翔子の隣に腰かけた。 「サンキュ。これよこれ。……よく覚えてたじゃない」  春樹のちょっとした優しさにご満悦の翔子は、今まで見た事のないニコニコ顔でそれに口をつける。  今夜の翔子は、胸元が少し開いた光沢のあるブラックのスキッパーシャツに、ダークブルーのスキニーを履いている。シューズは昨日とは違うグレーのハイカットスニーカーだ。――昨夜と同じくラフなのだが、それを感じさせない洗練された着こなしは、やはりスタイルが良いからだろう。  翔子は「うん、甘くて最高!」と天に向けてコーヒー缶を掲げると、フゥと一つ、ため息をついた。春樹はそのため息の次に続く言葉が気になる。 「やっぱうまくいかねーよな。……かなりミスったよ」  翔子のため息の理由はわかっている。……春樹の走りに不満があるからに違いない。だから言われるより先に春樹からミスを認めたのだ。少しだけ弱気になっている。だが―― 「そうね、ミスはあったわね。でも――」  速かったわ――死ぬほど。  春樹をしっかりと見据え、満足げにその言葉を伝える。――えっ? と戸惑う春樹。落胆されなかったのが意外だった。 「いや、ダメだろう……得意だった高速クランクでミスったんだ。ショックだったぜ」 「……ショックだったのは私の方よ」  なぜか翔子も被せてくる。――わからない。  翔子はウフフと、口の端に微笑みを浮かべると、缶コーヒーをベンチに置いてゆっくりと立ち上がる。そして目の前にある腰の位置ほどのフェンスに向かうと、丸くて丈夫そうなフェンスの上端に手を置き、植え込みの先に広がる黒々とした木々を眺めた。  暫しの沈黙。群生する樹木の湿り気を帯びた独特の落ち着く匂いが二人の間に流れ込む。頭上には、まるで落ちてきそうなほどに美しい星々が瞬いていた。くるりと翔子は振り返り、フェンスに腰かける。
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