SS2 決意

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「私ね、今通っているレーシングスクールでトップの成績なのよ? ……なのに、春樹の速さは私の体内にあるスピードレンジを軽く凌駕していた。――だから怖かったのよ」  だって考えてみてよ? 隣に乗っていて、自分ならここでブレーキングするな、っていうところをまだ全開で突っ走るのよ? ……絶対事故ると思うでしょ? ――そこまで話すと、息をフゥと吐き、また話し始める。 「……兄が言っていたわ。スピードレンジっていうのは、その人間が持って生まれた感性だって。……同じ速度でも『速い、遅い』の感じ方が人によって違うのはそのせいなんだって。つまり、春樹の圧倒的な速さはその脳内にあるスピードクロックからくるもので――」  ――私の次元では全く追いつけなかったのよ。  切なそうな目をする翔子に、春樹はかける言葉が見つからない。自分と翔子の間に、それほどまでの『開き』があるとは思えないのだ。現に翔子は十分に速いし、昨夜のバトルでは前に出られたりもしていた。 「スピードレンジなんて、訓練でどうにでもなるだろう? ……そんなに重要な事なのか?」 「わかってないわね。……言ったでしょ? あのハイスピードレンジを生み出すのは生まれついてのものだって。……こう言えばわかってもらえるかしら? あれほど怖い思いをしたのは二度目なのよ。最初はね――」  兄がサーキットで走らせるマシンに乗った時なの。あの時以来の絶叫よ? ……その後もいろんなプロがドライブする車に乗ったけど、怖かった事なんて一度も無いわ。つまり、春樹と兄は同じ種類の人間なのよ。……良く言えば天才。スピードの申し子ね。悪く言えば――アタマのネジがぶっ飛んでるのよ。  ハハハ……頭のネジかよ、と春樹が力無く笑う。そう言えばずいぶんと前に英二にも同じ事を言われた気がした。バイクでの突っ込みの厳しさがまるで神風走法だと。思えばあの頃から春樹のスピードレンジの高さは群を抜いていたのだ。普通の人間なら怖くてスロットルを戻す局面でも全開を貫いていた。でもそれは恐怖を押し殺して根性でやっていた訳ではではなく、本当に怖くなかったのだ。それが速さの秘訣だったのだろう。
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