SSS 衝撃(上)

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 初めて翔子の車に乗った日から一週間――  その間、春樹はインプレッサで毎日夜の十一時半から(バイトが遅くなる時はその後から)いつもの峠で一時間半の走り込みを行った。  雨の日も風の日も(と言っても一日も降らなかったが)――ナビシートに翔子を乗せ、毎日コンマ5秒を削る目標を立てて二人で模索しながら走った。もちろんタイムアタックは難易度の高いダウンヒルだけだ。一本下る度に、上りでクールダウンさせ、また全開でアタックする。その繰り返しだ。  最初のうちは順調だった。春樹の慣れもあるが日々着実にタイムを削っていた。  ところでこの峠、中腹にある展望台のところで上下二つのセクションに分ける事ができる。これはバイクで走る場合、ぶっ通しだと実に八分近く全開で攻める事になり、さすがに体力が持たないのだ。それでちょうど中間地点にある展望台が併設された小さなパーキングで折り返し、『上のコース』と『下のコース』に分けるのである。  だが車で攻める場合は別だ。バイクほど体力を消耗しないので上下ぶっ通しで走るのが通例であり、約八分間の全力アタックはマシンにはかなりキツイが、人間の集中力はギリギリ続く。なお今の春樹のインプレッサでのベストタイムは八分二秒。……七分台に乗せるのが課題だったのだが――ここである問題が浮上した。 「――おかしいわ。……タイムにバラつきが出ている」  なんでかしら? ――今日四本目のダウンヒルを終えて山頂のパーキングに戻る道のりで、翔子がストップウォッチを見つめながら首を傾げた。 「バラつき? ……いや、そんな事ないと思うけど?」  春樹はステアリングをせわしく切りながらクールダウンといえど結構なスピードで坂を上って行く。――ナビに座って困惑顔の翔子をチラリと見やる。 「今日だけでも四本全部バラバラ。早い時と遅い時で差が5秒近くあるのよ? ……昨夜も二本あるわね。……やっぱり変よ。ずっと調子良かったのに」  頭上に設置してある競技用のナビゲーターライトを点灯させて、膝の上に置いたノートをペラリと捲る。この一週間、タイムアタックの最中、ナビに座りながら春樹のタイムを全てノートに記録していたのだ。手書きのコースレイアウトに、コーナー毎の通過タイムがびっしりと書き込んである。
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