SSS 衝撃(上)

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「でもなあ……先行車も対向車もいなくて全開だったからな……そんなにミスした感じもないし」  うーん、と春樹も悩んでいる。いくつかのコーナーを思い返すが、流れる景色に記憶が霞む。  やがてインプレッサは誰もいない展望台を通り過ぎ、急勾配でアグレッシブなコーナーが山頂まで続くチャレンジングなセクションに入る。ヒルクライムをこのインプレッサではまだ攻めた事は無いが、きっとロードスターに比べて途方もなく走りやすいのだろう。どこまでも盛り上がるトルク、それを受け止める四輪駆動。もしかしたらロードスターの一速上のギアでもコーナーを立ち上がれるかもしれない。そんな事を思いながら、翔子の言葉の意味をまだ考えていた。 「……もう遅いから、上に着いたら今夜は解散にしましょう。……バラつきの事は後で考えておくから」  ああ……そう呟くと春樹は「あんま気にするなよ」と続けた。何事も良い時もあれば悪い時もある、そんな言葉が頭の中をよぎったのだ。だがその言葉に救われたのか、張り詰めていた翔子も「そうね、気のせいって事もあるしね」と話すと、ニコリと微笑んでからフゥと大きく息を吐いた。  これで今夜の春樹の特訓は終わりだ。……走り込み八日目。時刻は深夜の一時。今夜も星が綺麗だった。  そもそもこの特訓の始まりはこうだ。  インプレッサに初めて乗った夜――翔子に麓のパーキングに置き去りにされてタクシーを呼んだあの夜だ――疲れて自宅に帰ったところに遡る。  自室に入ると、春樹は気になっていた言葉をすぐに調べた。 『コ・ドライバーになります』……これだ。ネットで調べるとこう説明があった。  ラリーでナビゲーターシートに座り、ドライビングに集中するドライバーの目となり頭脳となる。即ちサーキットなどを走らないラリーでは、毎回コースが異なるため事前に覚える事は不可能であり、一度だけ許される下見走行でコース図を詳細にノートに記録し、それを本戦で読みながらドライバーに的確にコース指示をするのがコ・ドライバーの役目である。  ――コ・ドライバーがいるからこそドライバーはドライビングに専念でき、二人一組で走るラリーでは大切なパートナーである。またコドラと略す事もある。
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