SSS 衝撃(上)

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        ***  そして当日の日曜日――の朝九時。  春樹は眠い目を擦りながら、なぜかロードスターで翔子の家の前に来ていた。 「――とにかくウチに迎えに来なさい。わかった?」  と数日前に学校でそれだけ約束をさせられ、言われた通りに――いや家の場所はおろか携帯の番号すら知らない春樹は必死に『行かない』と食い下がった。  するといい加減な手書きの地図に携帯の番号を記された紙切れを投げ渡され、春樹は知るかッと息巻くも結局拾い、今に至った。  この一週間、深夜の走り込み特訓が無かったおかげで身体はだいぶ楽なのだが……なぜに普段なら昼頃まで寝ているのどかな日曜日の朝八時に起床せねばならないのか?  そんな怒りと疑問で胸を満たしつつ、春樹はどでかい屋敷の前に立っていた。――やたらと幅の広い鉄門の横にあるインターフォンを恐る恐る押してみる。 「『遅い』」  の一言が瞬時に返ってくる。それも恐ろしく冷たい声で。普通はお手伝いさんとかが、ハーイ的な感じで明るく応答するだろう。……知らないが。だが本人がいきなり出るという事は……  何、ガチで待ってんだよ。春樹は呆れるも、背筋に冷たいものを感じる。この展開はヤバいぞ。 「『普通、最低でも十分前には来るものでしょ? アンタって一体何……』」 「悪かったよ! ……悪かったって! スイマセン、ゴメンなさいっ!」  インターフォン越しに罵声など浴びたくないので、翔子の苦言を遮るようにして謝る。……翔子を攻略するにはこれに限るのだ。  そこから更にすみませんを五回ほど言ったところで、まるで城門のような鋳鉄製の扉がゴゴゴッと左右に引かれるようにして開いた。ごかーいもーんと春樹は心の中で歌う。もうアニメの世界である。  歩いて中に入ると前庭もスゴかった。石畳のアプローチが五十メートルくらい続き、その左右にきっちりと手入れの届いた日本庭園が広がっている。その先におわす屋敷は、国の重要文化遺産ではないかと思うくらい荘厳で美しい洋館だ。そしてその奥にチラリと見える裏門に続いているのだろう離れのような建物が二棟。――それだけも春樹の自宅より大きい気がする。
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