SSS 衝撃(上)

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 なんと英二まで家を出てきたのだ。理由はこうだ。『お目付役だ。……おふくろが心配なんだとさ』と言った英二はどこか照れくさそうだった。つまり、そんなのは口実で、英二こそ翔子の事が心配なのだ。それで居ても立っても居られなくなり、後を追って飛び出してきたのである。  だが、形だけだが『監視役』が傍にいるお陰で、翔子は両親に無理に連れ戻される事も無かった。まあ、英二自身、親のために監視などするつもりは毛頭なかったが。  翔子は通っていた学校をこの温泉街にある公立の中学校に変え、全ての習い事――もちろんレーシングスクールは続けるが――を投げ捨てた。 『進むべき道を自分で探す』――そう誓った翔子は二度目の人生を始めるつもりで全精力を注いでレーシングスクールでドライビングテクニックを磨いた。幸いスクールは祖母の家からだとかなり近くなり、バスで四十分もすれば着くので、都内から二時間近くかけて通っていた頃に比べたら飛躍的に楽になった。  英二も二時間もかけて今までの学校に通う気は無く、あと一年で卒業だった高校生活をバッサリと切り捨てて、翔子と同様にこっちの公立高校に転校したのだ。そう、翔子と春樹が現在通うあの湖の畔にある学校だ。もちろん「レーシングスクールが近くなってバンバイザイだぜ」と翔子を心配させない気配りも忘れずに。  これで完全に解放された――中学二年生の翔子は、オートランドが全面整備のため休館となる月曜日以外、学校帰りに毎日英二と一緒にレーシングスクールに通ってサーキットからジムカーナ、それにダートコースを無心で走り込むのだった。
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