SSS 衝撃(上)

13/14
前へ
/228ページ
次へ
「ちょっと、何ジロジロ見て黙ってるのよ! ……な、なんか言いたい事があるなら言いなさいよねっ!」  に、似合ってないならそう言ってよっ! と喚きながら今にも泣きそうだ。春樹はあたふたと手を振りながら必死に弁明する。 「ち、違うって! そうじゃないってばっ! ……ただ、ちょっと――」 「ちょっと何よ! やっぱり似合って――」 「いや、スゴクいいよ! うん、いいねっ! もうレモンよりも似合ってるぞ!」  な、何それ、ヒドい、酷いわ――ぐすん、涙が込み上げる。いや、零れたか。いつもは手にしないハデ目の色で冒険した事をちょっと褒めて欲しかっただけなのに……レモンだなんて。もう嫌だ、着替えてくる。  そう決意すると、飛ぶような速さで屋敷の裏口に駆けていった。 「何でだよ……褒めたんだけど」  女心がイマイチわからない春樹には、翔子の涙の理由など知る由も無く――それから待つ事三十分、翔子は無事黒いTシャツにブラックのカットシャツを羽織ると、いつもの黒いスニーカーに履き替え、これでもかの黒ずくめに仕上げてくる。  冒険したりしなかったり……なんとも極端な性格だ。そしてようやく家を出たのは午前十時三十分。十一時から走り込みを開始するにはもう完全に遅刻であった。 それからいつもの峠とは別の山の中にあるオートランドを目指して走る事四十分――車内でやんややんやの言い合いを繰り広げつつ……いや、まともな話しも少しはしたか。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

193人が本棚に入れています
本棚に追加