SSS 衝撃(上)

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「――私はね、全てがやりかけで、全部放り出してしまった中途半端な人間なの」と、翔子が身の上話しを始めたのは、ダートコースを走った事があるのかを助手席に座る春樹が尋ねたのがきっかけだった。  幼少の頃より数多くの習い事をさせられ、どれも身につかないままに投げ出した事。理解の無い母親との確執がある事や、そのために中学二年生の時に本家を飛び出し、毎日のようにレーシングスクールで走り込んだ事……そして世間からは一切評価されていない事。――後にそれらをすらすらと話してしまったのを、翔子自身が驚くほどに打ち明けてしまった。  黙って最後まで聞いていた春樹は「あれだけのドライビングテクニックを身に着けたんだ、中途半端なんかじゃない」と強く語り、その思いはちゃんと翔子にも届いた。そして「認めてもらえないなんて事は絶対に無い。見ている奴はちゃんと見てくれている」と付け加えると、じんわりと涙が浮かんでしまうのだった。  翔子の話しを色々と聞けたところでオートランドに着くと、そこから更に五分ほど敷地内を走って真っ直ぐにラリー開発チームのピットガレージに向った。  ピットはピットレーンに沿う形で六つ並んだガレージで構成されており、そのうち一ケ所だけシャッターが開いているピットの前にインプレッサを停めた。そして春樹がナビシートから下りたところで、突然目の前に……美しい外人さんが――      (つづく)
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