SSS 衝撃(下)

7/18
前へ
/228ページ
次へ
        *** 「――だから怒ってないってば! だいたいアンタが誰とどこで抱き合って見つめ合ってキスしてたって、なあぁぁぁ――んとも思わないんだからねっ!」 「だからそんな事誰もしてないだろ! あれは不可抗力だってば! 腕掴んで立った時に弾みで転んだんだよ! ――って何度、言わすんだよっ!」  アンタが怒ってるって言うからでしょ! それに、全部事実じゃない! 何が弾みよ! それで鼻の頭に口紅が付く訳? アンタの鼻ってどんだけ高いのよ! 一メートル? 二メートル? あっそっか、高いんじゃなくて鼻、伸びてたんだ! アンタのバカ面、写メに撮っておくんだったわっ」  だから違うって言ってるだろ! ――と、二人の論争は一向に収まる気配がない。  特に翔子の嫌味は辛辣だ。いつもそうなのだが、その場限りの消耗感で終わらずに、二、三日経った後もふと何かの拍子に思い出したりしてまた苦しめられるのだ。春樹は思う。翔子は『人を怒らせる天才』だと。  それに見つめ合ってキスだと? ……というかナオミさん、あなたは一体どんな説明を翔子にしてくれたんですか? ――香水の甘い香りを思い出しながら「私がフォローしておく」と言って颯爽と消えて行った後の更衣室でのやりとりが非常に気になった。  だがナオミは事実を告げるつもりはないだろう。……春樹に迫られて押し倒された、と泣き真似をしながら翔子にも実演すると言って押し倒しながらついでに身体を触りまくって、今度は反撃を受けてバストを揉みまくられたなんて。――まあ二人でチチくりあって遊んでいただけなのだが。  それであの後、春樹がピットの隅っこでいそいそとレーシングスーツに着替えている時に、更衣室からちょっとだけ着崩れした感じで出てきたナオミを目撃したのだが……まあ春樹は知る由も無い事だ。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

193人が本棚に入れています
本棚に追加