SSS 衝撃(下)

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 源さんとケンさんは、ピットの前で、乗ってきたインプレッサのタイヤをダート用に替えたりマッドフラップを取り付けたり――今日はいつものインプレッサをそのまま使う――二人のオープンフェイスのヘルメットと車内にインカムセットを取り付けたりで忙しくしていて助けてくれないし、レーシングスーツに着替え終えた翔子は当然の如く、フンッと春樹を一瞥しただけで無言でインプレッサに乗ってコースに出て行ってしまうし――これは足回りのセッティングを変えるための軽いテスト走行だったのだが――勝手がわからず、強い孤立感の中でただひたすらにヘルメットを抱えたままピットの入り口のところに立ち尽くしていた。  そしてダートコースを数周した翔子が戻ってくると、またピットの前にインプレッサを停めて、春樹以外の全員が運転席の周りに集まった。  そこでショックアブソーバーの固さや車高の調整について打ち合わせると、皆一斉に仕事に取りかかる。ケンさんがピット内にインプレッサを入れ、源さんが油圧リフトでインプレッサを一気に持ち上げる。翔子は一旦オープンフェイスのヘルメットを脱ぐと、長い髪をバサリとかき上げ、暑っつーい、と言いながら持ち込んだポカリスエットのペットボトルに口をつけ……ナオミはピット内の脇に設置してあるテーブルに置かれた五台のパソコンを起動させて一台づつアプリケーションを操作し――春樹はただそれを呆然と眺める事しかできなかった。  ジャマジャマと、ケンさんと源さんに揃って言われた時にはもう、春樹の気力エネルギーはゼロになり――若干ふて腐れている。  だが、そんな時に声をかけてきたのは、意外にも激怒しているはずの翔子だった。――まず私がグラベルの走り方の手本を見せるから、ナビに座ってよく見てないさい。  そう冷たい視線を浴びせながら必要事項のみ事務的に伝えると、セッティングが済んだインプレッサに二人で乗り込み――この言い争いが始まったのである。
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