SSS 衝撃(下)

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 なお翔子は今、そんな余裕は無いはずだ。土煙を上げながらダートコースを疾走するインプレッサをドライブする翔子は、怒りにまかせてアクセルを踏みつけるものだから全てのコーナーにオーバースピードで進入し、そこからメチャメチャにカウンター当てるからとても手本になるような走りでは無かったのだ。  コースアウトしそうになったり、スピンしかけたり……こんなに感情を乱されたまま走る事など無かったので、もう何が起きても不思議がないほどにスリリングなドライビングだった。  だがそれは、裏を返せば春樹を多大に意識しているという事であり、つまりそれはナオミとの一件でやきもちを……そう看破したナオミは実に鋭い。いわゆる女の感というやつだろう。もちろん当の本人は一ミリたりとも気付いていないが。  まるで夫婦喧嘩のように激しい言い合いを繰り広げた二人は、翔子が手本を見せた四周の走りが終わる時に『停戦』という形で同意し(翔子が一旦保留とし、後日ナオミと何をしていたのかはっきりさせると宣言した)いよいよ春樹がステアリングを握る時がきたのだ。  ここまでやけに長かった気がする。朝の九時に翔子の家に着いて罵声を浴びて、こっちに十一時過ぎに来てまた罵声を浴びて、さっきも罵声を浴びて……もうなんだか思い出すとくじけそうになる。  だがピットに戻った車のシートの位置を素早く調整し、翔子とチェンジした春樹がいよいよダートコースに向かうと、これまでのお遊びは全て記憶から消える事になる。  そう、春樹のグラベルデビューはそれほどまでに鮮烈だったのだ。
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