193人が本棚に入れています
本棚に追加
一方ピットでは――
ナオミと源さんがテーブルに並んだモニターをじっと見ていた。春樹のインプレッサは既に7ラップを終え、モニターにラップタイムが刻まれると、次の周回に入っていく。
ケンさんの方は、「せっかくだからモニターじゃなくて生で見てくるわ」と言ってダートコースの脇に設置されたギャラリー用のスタンドに出張っていた。
ナオミはブラックのレーシングキャップを目深に被り、黒い細長のサングラスをかけると、腕組みをしながらキリッと立って、先ほどまでのお茶らけていた時とはまるで別人の様な鋭い目つきで、三台のモニターに映し出されたダートコースの三ヵ所の映像を食い入るように見ている。隣で同じように腕を組んで立っている厳しい表情の源さんがナオミに話しかけた。
「……どう見るよ、ナオミ。春樹は『本物』か?」
ナオミは暫くうーん、と考え込むと、重そうに口を開いた。
「そうね……その答えを簡単に出して良いのか……まだ私の中で整理がついていないのよね」
と言いながら、ラップタイムを一覧表示しているモニターを指さした。そして続ける。
「見て。まず1ラップ目はウォームアップだから除外。続く2ラップ目が、もうおかしいわ。コースレコードに5秒まで迫っている。……目を疑うでしょ?」
「ああ……最初は計測器の故障かと思ったからな。でもその後のラップタイムの出かたを見て、壊れていないと確信した。……続けてくれよ?」
「ええ。……初めてのコース、いえ、初めてのダートよ。それでこのタイムをいきなり出して、3ラップ目に更に3秒削る。そして4ラップ目で――」
コースレコードを塗り替えた。……たった1秒だけど、この1秒は英二が二年前に出して以来誰も破れなかったのよ。もうこれって――
――天才を超えて神の域だわ。……ゴッド。スピードを司る神よ。
なるほど、神か……と源さんは顎に手を当てて頷く。そして、
「日本には神童っていう言葉があるくらいだからな。あながち外れてねーな」
と話すと、険しかった表情をやわらげた。
最初のコメントを投稿しよう!