SSS 衝撃(下)

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「本気で言ってるの? ……冗談だったら殺すから」  と、翔子はまだ剣呑さが残る瞳で唸るように答えた。  だが春樹は本当に何も知らないと訴えると、翔子は一度大きく息を吸い込み――  ――兄は意識不明の重体よ。……一年前のレース中の事故で、今も入院しているわ。  その言葉に春樹はショックで脳内の時間が制止してしまう。何も聞こえない、何も考えられなくなる。運転をしている事すら忘れ、ハンドルさばきが不安定になると、春樹、春樹っ! と必死に呼びかけてくる翔子の声で、ようやく我に返った。 「あ、ああ、すまない。……まさか、そんな……ウソだろ?」 「ウソなんかじゃないわ。……いえ、ウソであって欲しいわよ私だって!」  半狂乱になる翔子に、今度は春樹が、悪かった! と謝りながら必死になだめる。未だに信じられなかったが、隣で泣き出してしまった事が動かぬ証拠であり、春樹はようやく事実を受け入れ始めた。  すると全てのつじつまが合う。この一年間バイクで走っていた時、突然姿を現さなくなった事を。  翔子の話しに頻繁に出てくるのに、ここ最近一度も英二に会わなかった事を。――ガレージにあったバイクが埃まみれになっていた事を。  ずっと入院していたなんて――なんで誰も教えてくれなかったんだよ!  そうやって誰かを責めようにも、人とのつながりを拒んできた春樹にそんな資格などなく、その事は自分が一番わかっていて――もどかしくて苛立ちを隠せなかった。  バンッとドアの内張りを強く叩いても、ロールケージの張り巡らされたインプレッサはびくともせずに、ただ二人を守るように包み込んだまま、どこまでも力強く走るのだった。      『フルスロットル! SSS衝撃 終わり』
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