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「ええもちろん。……春樹には悪いけど、彼女も信じられなかったんじゃないかしら? ……本当にレコードが破られてしまったのか、あなたがそれほどまでに速い人なのか。それで自分の目で確かめてるのよ。……ほら、彼女自身もこのコースのトップ5に入る名アタッカーだからね」
「なるほど……まあ、それならわからなくもないですけど。……でもレコードなんて塗り替えるためにあるものでしょ? ……なんかの受け売りですけど」
「ええ、よく聞く言葉よね。……でもね春樹。ここのコースレコードは二年間破られなかったのよ? それをあなたは初めて走った日に塗り替えてしまったの。……これは、あなたは誇りに思っていい事だし、周りの人間にしたら――」
奇跡なのよ――そう話すナオミはどこか誇らしげだった。いや、ナオミだけではない。春樹はまだ契約していないのでチームの一員ではないのだが、それでもあの日居合わせたピットクルーは、皆大興奮し、一様に歓喜の声を上げたのだ。
誰もが自分の事のように――春樹のスペシャルアタックに感動したのだ。そう、二年前に英二がレコードを更新した時と同じように。――あの時と同じシルバーのインプレッサで。
だから、まるで家族のように温かいこのクルーは、英二と春樹が重なり――嬉しくも、切ない思いでいっぱいだったのだ。
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