第1章

2/10
前へ
/10ページ
次へ
「どうして、こうなってしまったんだ。最悪だ……この世の終わりだ……」  悲観的にくれながら私は目の前にある朝比奈京子宛に書かれた解雇通告を見ていた。 まさか、自分が30歳になってリストラの波に乗るとは思わなかった。仕事は確かにできる方では無かったが、私よりも仕事ができない人は多くいたというのに。 暗い気持ちのまま暗くなった夜の街を、まるでゾンビのように彷徨うようにして私は意気消沈と歩いていた。 「明日からの生活はどうしたらいいの。今更、資格もないのに転職なんてできないわ」 いっそ実家に帰るという方法もあることはある。喧嘩別れのように家から飛び出して以来、音信普通ではあるけれど、数年も経っているのだ謝れば許してくれるかもしれない。そう楽観的に考えようと思いながら池袋の混雑した人混みを歩く。 その時、ふと目の前に男性の影が私の進行を塞ぐように立っていた。あぁ、キャッチかな。これだから繁華街は好きになれない。そう思いながら男性の方をみると長細い肢体うをスーツに包んだモデル顔負けな顔つきの男性がそこには立っていた。 「お仕事帰りですか?」  男性はにこやかな笑顔をこちらに向けて、まるで人生を謳歌していますというような態度に私の落ち込んだ心は、絶望よりもその男性への逆恨み的な感情から怒りにすり替わっていた。 「クビになったんですよ! なんか文句ありますか?」 我ながらに酷い逆切れだ。男性は虚を衝かれたような表情を浮かべていた。それもそうだろう、声を掛けたら急に逆切れされれば大体の人は驚くだろうな。でも、その男は一瞬にして先ほどの笑顔に戻って話し始めた。 「それは……大変でしたね。次の転職先は決まっていますか?」 「決まってたら苦労しませんし、理不尽に声を掛けることもありません。それにキャッチなら間に合ってます」 「いえいえ、キャッチではないんですよ。ははは」 キャッチでないならばナンパか? そう思ったが私の外見はそこまで良いというものではない。不細工とまでは言わないまでもその辺にいるような普通の女性だ。そもそも、目の前の男性は女性に苦労するような人間には見えない。と、なると新手の宗教勧誘か何かだろうか。猜疑心の強い眼差しを男性に向けると、彼は困ったような表情を浮かべる。 「実はキャッチというよりも、仕事を探している人を探しているのです」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加