第1章

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「正確には、90分1万円だね。延長が最大で120分で1万5千円ですね。ただ、肉体労働だからね。高いっておもうかもしれませんが、妥当な金額なんですよ」 なるほど。確かに殴る蹴るを90分し続けるのは肉体労働に近いのかもしれない。体力にはそれなりに自身はあるけど、永遠と90分殴り続けることはないのだろうな。そう思いながら私は菊野の説明を聞いた。 どうやら、風営店ではあるものの直接的な性的なサービスは行わないらしい。女性に虐げられたい特殊な性癖の人が通うお店らしい。そう言う人も中にはいるものなのか。カメラの画面を見ると若い男性から中年まで、色々な層の人がサービスを受けていた。 やや男性の嗜好にひきはしながらも、殴る蹴るだけでお金がもらえるなら良いのかもしれない。それくらいに私のメンタルは弱っていた。何よりもお金のためだ。そして、私は菊野に体験入店させてもらうことにした。 「これで誰も来なかったらどうしよう……」  一瞬、不安になったのもつかの間。ものの10分程度で初めてのお客さんが来た。冴えない顔つきの青年は「とにかく殴ってほしい」と言う。そう言う店なのだから当たり前か。私は躊躇しながらも殴ると青年は不満そうな顔をして「もっと強く」と言う。 なるほど、ここではそう言う気づかいはいけないのか。何度か殴っているうちに私の中で罪悪感よりも優越感が、相手の痛そうな顔に対して言い知れぬ快感が胸の奥から湧き上がる感覚がした。 初めて人を殴る。それも全力で。気が付くと私も彼も汗だくになっていた。暗い部屋の中で荒い息遣いが聞える。奇妙な錯覚を覚え始めたころ、部屋に常設してある電話が鳴った。終了のお知らせらしい。青年が電話に出ると店員の男性が部屋に入ってきて、お金を徴収していった。 青年は恍惚とした表情で私に「またお願いします」と言うので、私はやや引きながら、その言葉を了承した。  それから、数か月が経つ。私は転職先を探しながらも菊野のお店を週4日で出ていた。稼ぎも日中の仕事よりも増えて、このまま働き続けても良いかもしれない。そう思い始めた頃、その人はやって来た。 数か月経つとお店の人ともある程度の会話をするようになり、仲も良くなる。中でも、菊野はここを経営しているだけではなく、従業員に対して優しいケアを心掛けているようで慕う人も多い。その菊野が困った表情で休憩している私の部屋に入って来た。
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