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私はそうして、また普通の生活に戻っていくはずだった。私と真理はいつの間にか同棲するようになっていた。とは言っても、体裁的にはルームシェアだ。特にそれは問題がなかった。料理は真理の担当だった。とても美味しく不思議と魅了される食事の数々に、私の胃は見事に掴まれていた。
ある日、真理は照れた表情で私にお願いしてきた。彼女の性癖は私と関係をもってから、より捻じれてきていた。今日は噛んで欲しいのだと言う。彼女の柔肌は少し叩くだけで赤くなる。私は真理の衣服を丁寧に脱がすと、その首筋にキスをして舌を這った。
濡れる首筋に吐息を掛けると、彼女は甘い声をあげて私を誘う。その瞬間、私は思い切り彼女の首筋を噛んでみた。ゴムのような柔らかさと、真理の甘い匂いが私の理性を緩くさせる。官能に浸りながら噛む力に強弱をつけながら彼女の様子をみると、頬を赤くしながら苦悶の表情とも恍惚の顔とも呼べない顔つきで私を見ていた。
暫く続けると、口の中に鉄の味が広がる。思い切り噛みすぎてしまったのか? 私は慌てて顔をあげようとしたが、真理の腕が私を抱くようにして私が唇を離すのを阻止する。
「もっと……もっと噛んで」
真理は蕩けたような声でそう言う。普通ならドン引きするかもしれない。でも、今の私にはその言葉は既に、誘い言葉でしかなかった。その後は位置を変えながら、彼女の体中を噛み、愛撫し、嬲った。途中からは血の味ですら私にとって性感帯のように脳髄を快感が刺激していた。
行為が終わると、文字通り傷だらけになった真理のケアをする。何度か彼女に謝ったが、彼女自身は噛まれることが癖になったのか治る度に噛むことを要求してきた。そして、私と彼女は一線を越えてしまった。
「これ作ったの、食べて?」
彼女が出したその日の料理はいつもと違っていた。どことなく癖のある味に私は最初、自分の舌がおかしくなったのかと思った。
「なんだろう。今日の料理って少し癖がない?」
「うん。あると思うよ。でもね、世界に1つしかない肉なの……美味しくなかった?」
「美味しいんだけど、食べたことのない味がしたんだ」
真理は思いの他、嬉しそうな顔をしていた。それにしても、世界に1つしかない肉だなんて大げさだな。私はそう思いながら彼女の作った料理をなんの疑いもなく食べきった。
食べ終わると、彼女は冗談のようなことを言ったのだ。
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