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「もし、私が死んでしまったら。京子さんにお願いがあるの」
「死なないでくれるのが一番うれしいけど、なに?」
食事が終わって、彼女を抱きしめながら頭を撫でる。まるで自分が男性になったような、そんな錯覚すら覚える。真理は少し恥ずかしそうにしながらお願い事を言った。
「あのね、私が死んだら、私を今日みたいにタベテ?」
何を言っているのだろう。私は聞き間違えたのかと思って彼女に聞き直した。しかし、帰ってくる答えは同じだった。
「どういうこと?」私がそう聞くと、彼女は恥ずかしそうに靴下を脱ぐ。彼女の右足の指には包帯が巻かれていた。しかし、歪なことに。そこにあるはずの指が数本ないような包帯の巻き方だった。
混乱する頭を抑えながら、真理に今日のご飯の材料を聞く。彼女は何も答えずに唇を重ねてきた。この子は自分の身体の一部を私に食べさせたのだろうか。自分で指を切って、自分で縫い、調理したのか。
彼女の舌が私の唇をこじ開けて、私の舌を撫でる。私がそっと彼女の包帯が巻かれているところに触れると、痛いのだろうか顔を苦痛に歪めた。それは、私の歪んだ性癖を逆なでさせるのに十分だった。
真理は私を愛している。私は真理を愛しているかは解らない。でも、この子が望むことなら受けてやろうじゃない。私の心はきっと何処かでおかしくなってしまったのだろう。
暫く、彼女の舌を噛んで味わいながら私は彼女に「死んだら食べてあげる」と、言った。
そして、その翌日。真理は私の愛用する荒縄で首を吊って死んでいた。
薄々予感はしていた。この子は噛まれること、私の中で生き続けることを望んだのだろう。
ぶら下がった彼女の遺体は裸で、綺麗に拭かれていた。
私は心の何処かでガラスが割れる音を聞きながら彼女の遺体を見つめていた。
「本当に死んでしまうなんて」
荒縄で吊るされた彼女を下ろそうと肌に触れる。冷たい。何処までも体温を奪っていくような冷たさが、そこにはあった。ふと足元に目をやると、真理の手書きだろうか。手作りのレシピ本が置いてあった。
何気なく、広げてみると。そこには真理なりに考えた、『自分』の調理方法が載っていた。丁寧に裁き方から保存方法まで書かれていて、私は彼女の言葉の本気さを知った。
そして――。
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