一章 暗い夢と明るい現実

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俺は13年前に近くの山で傷だらけで眠っているのを、たまたま通りかかった男性が見つけて警察に連絡してくれたらしい。 どうやら俺は頭を強く打っていたらしく 記憶がなかった、覚えていたのは自分が5歳であることと、勇斗という名前だけ。 苗字も親も、もちろん家の場所も覚えておらず、親戚もいない。 警察はお手上げだったらしい。 とりあえず俺を施設に預けようという話が出てきた、そんな時に一樹の母親である 古瀬亜由美(ふるせあゆみ)が自分の息子と同い年だから。という理由で俺の面倒を見てくれると警察に乗り込んで来た。 亜由美さんはこの辺りでは有名な人で、昔から破天荒で気は強いが、優しくて、いつも笑顔を絶やさない明るい人だ。 亜由美さんの人柄のおかげで俺は今もこうして施設に入らず、古瀬家で飯を食えるんだ 「いつもありがとうございます!!亜由美さん!!」 今思えば、感謝しか無い 「いいのよ、あんたはうちの息子同然なんだからね!!」 亜由美さんはやっぱり良い人だ ガラガラガラ 奥の扉が開くと向こうから眠たそうに目をこする女の子がいる 「あっ!!おはよう!!勇兄!!」 俺を勇兄と呼ぶこの子は一樹の実の妹である、古瀬一音(ふるせかずね)である 「おはよう一音ちゃん」 朝の挨拶をして前を向くと一樹が不満そうな顔をしている 「どうしたんだよ一樹」 一応聞いてみた 「何故に勇斗には朝の挨拶があって!!実の兄である俺には無い!!」 また始まった 「兄だぞ??実の兄だぞ!?朝の挨拶どころかチューがあってもいいんじゃないかなぁ!!妹よ!!」 そう、こう見えて一樹は重度のシスコンなのだ 「一樹兄は、なんか気持ち悪いから嫌」 なんの躊躇も無い本音の様だ 「くっ…」 悔しそうな一樹は面白いけど、今回は助けてやろう 「一音ちゃん…おにいちゃんにも一応おはようくらいは…」 「……おはよう」 ムスっとした表情で一音ちゃんは一樹に朝の挨拶を済ました 一樹はというと…… 「うっうぅぅ…うぅぅっ」 勘違いしてはいけない、これは悲し涙でも悔し涙でもない、紛れもない嬉し涙だ 「おは…うぐっ…よぉう…」 「…キモッ」 小学校4年生の一音ちゃんが放った言葉に俺は頷くことしかできなかった でもこれがいつも通り、こんなに楽しくて幸せな日々は俺には勿体無いくらいだ。一樹が居て、一音ちゃんが居て、亜由美さんも居て、俺は満足だった。 ………この日までは…………
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