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階段を上り二階の扉を開けた。ノブをつかむ手がすでにしっとりしていた。
「おや、いらっしゃい」
扉付近に立っていた背が高くほっそりとした青年が声をかけてくれた。この人が『鷹野探偵事務所』のオーナー、鷹野氏なのだろう。
「あ、はい、はじめまして」
林崎は素早く挨拶を返した。少しだけ声が裏返り、恥ずかしさで顔が熱くなる
「君も、助手希望にきたのですか?」
青年はやんわりとした口調で話す
「あ、はい」
「そうですか、わかりました」
彼はにこりと笑った。
「確認しますけど、助手はアルバイトと違います。募集要項にも書いてたように給料はあげられないけど…」
「はい、わかっています。そのことを承知の上で来ました」
「では君は、なぜ助手になろうと思うのですか?」
「はい、僕はミステリー小説を読むことが好きで、探偵に憧れています。ここで働けばその夢に一歩近付ける、そう思ったからです」林崎はハキハキとした口調で答えた。これはかならず聞かれると思い、家で何度も練習したからだ。
「そうですか。わかりました」
林崎はその返事を聞いてホッと胸を撫で下ろした。実は、あれだけ練習したにもかかわらず、『助手に憧れて』という箇所を『探偵に憧れて』と言ってしまうミスをしてしまい、そこを突かれたらどうしようと考えていたのだ。
「あなたの意志はよくわかりました。今すぐにでも採用したいのですが、ただ一つ、困ったことが」
その割に、青年はそれほど困ったような顔をしていない。
「困ったこと…ですか?」
林崎は聞き返した。
「えぇ、実はあなたの他にあと二人、助手になりたいって人がいるのですよ」
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