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第17章 前触れ(続き)
~ * ~
バレンタインの当日。
約束の6時に、デザートのケーキと一緒に彼女のアパートを訪れる。
『二階の一番奥、203号室です。』
メールで教えられたその部屋の前で、少しだけドキドキとしながら
ドアベルを鳴らす。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
暖かそうな部屋着にエプロン姿の彼女が、笑顔で迎え入れてくれる。
それを目に忍は、落ち着いた言葉とは裏腹に、
その場で彼女を抱きしめそうになる衝動を辛うじて抑え込んだ。
どうぞ。
ローズピンクのスリッパが並んだ小さな玄関の脇には、小振りのキッチン。
その狭い空間には、今まさに作られたばかりか、作っている最中の
好い匂いが漂っている。
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