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「こんな時間にすみません」
アリは震えながら両手で自分の身体を擦り寒さを凌ごうとしていた。いくら、アリの家とキリギリスの家が近いとはいえ、こんな寒い中をやってくるなど無茶としか思えない。キリギリスは慌てて、アリを家に招き入れると、暖炉の傍で暖めて干したキノコのお茶を差し出した。
「暖まりますよ」
「すいません」
アリは震える手でカップを掴みお茶を口に。干しキノコのお茶には身体を温める効果があるので、すぐにアリは元気を取り戻した。
「いったい、どうしたのですか?」
「急に押しかけて、図々しいのは分かっています。実は食料を少し分けてもらおうとおいまして」
アリは申し訳なさそうにキリギリスに言った。
「何を言っているのですか?夏の間、食料を集めていたでしょう。どうして、食料を?」
夏場、額に汗を流して食料を集めていたアリが秋になって食料を集めたキリギリスに求めてくるのは少し変な話だった。
「知っての通り。今年は天候不順で食料があまり採れなかったのです。このままでは、私は冬を越せません」
「おかしなことをいいますね。アリさんの所では、何百という仲間が働いているはずでは?それだけいれば、食料を集められるはずでは」
「それが、そうでもないのです」
アリは恥じるようにキリギリスに今のアリ社会の厳しい現状について語った。
アリといえば、その全てが働いているイメージであるが、実際に働いているのは全体の七割ほどでしかない。残り、三割は何もせずに怠けているのだ。それは、自然の摂理、昔からのことなので他のアリ達は気にしないようにしていた。自分達がその残り三割も補う食料を集めてくればいい。ところが、近年になってその三割の怠け者でありアリ達は余計なことを思いついた。
「女王様。あなたはいつ、どこで他の勢力に襲われるか分かりません。私達が守って進ぜましょう」
実に頭の回るアリである。今まで、女王アリは敵に襲われたことはない。それというのも、入り口で働きアリ達が守っているからなのだ。彼らが女王を守っていた。それも、さも働かない連中は自分達の手柄のように謳い、女王アリを味方につけた。
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