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「自分達は女王アリを護衛するものだ。他のアリ達を私達の為に貢ぐのだ」
実際は何もしていないというのに、彼らはまるで貴族気取りである。一度、新しい巣に住み着くとまず外に出ることのない女王アリは周りの状況など分かっていない。自分を守ってくれるというアリ達の言葉を鵜呑みにして、彼らに地位を与えた。
「私達も皆が暮らしていけるよう、春から秋にかけて食料を集め続けました。ですが、不作の年で皆が暮らしていけるほどの食料が集まりませんでした。それだというのに、状況を理解していないアリ達は私達がサボっていると決めつけ、女王アリ様に進言し、ノルマを達成できなかった者達は罰を与えるというのです」
アリは今にも泣きそうな声でキリギリスに近状を語った。
「なんということだ!」
アリの話にキリギリスは酷く立腹した。働かないのならまだしも、余計な知恵をつけ自分達の為に働いてくれている他のアリ達を虐げるなどあってはならないことだ。そんな社会に変貌しつつあった。
「これは、早急になんとかしないといけない」
アリから話を聞いたキリギリスは、その場凌ぎでしかないが、食料を少し分けてあげた。アリはひどく喜び何度もキリギリスにお礼を言って巣に帰っていった。
一方、キリギリスは他のキリギリスの下を訪れては、自分がアリから聞かされたアリ社会の現状を話してきかせた。自分一人が立腹したところで、力不足であることを知っていたから。少しでも多くの仲間を集めることを優先したのだ。
キリギリスの活躍があって瞬く間に昆虫達の間で、アリ社会の悲惨な現状が伝わった。
皆、口を揃えて言う。
「なんて、ヒドイ連中なんだ!」
しかし、今のアリ社会を変えることは容易なことではなかった。アリ同士の話し合いで解決させることが一番の平和的な解決方法であるが、肝心の虐げられているアリ達がその意思を見せようとはしない。これが、社会であり自分達の運命だと諦めきっていた。
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