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「よかった。よかった」
狂ったアリ社会が戻ったことにキリギリスは拍手送り、勝利を祝福する。あの木枯らしが吹く中、彼の下にやってきたアリも嬉しそうに笑っていた。
「ありがとうございます。貴族アリによる悪政は終わりました。これからは、私達、働きアリが率先して社会がより良くなるよう努力します」
「そうなることを私は願っています」
キリギリスは清々しい気持ちでアリを激励の言葉をかけてあげた。
争乱の春が過ぎ、夏に差し掛かる頃、キリギリスは一曲の詩を書き上げた。それは、悪政を打ち破り自分達の手に社会を取り戻したアリ達を称える詩であった。アリ達の新しい門出にこの曲を送るつもりでいた。
キリギリスは葉っぱの鞄に詩を入れてアリの巣に向かった。道中、去年まで威張っていた貴族アリ達がボロボロになりながら、食料を集めたり自分達が壊してしまった巣の修理に当たっていた。
「おや?」
キリギリスがグルリと辺りを見渡したが、あのアリがいなかった。てっきり、去年と同じように仕事をしていると思ったのが、どこにもいなかった。巣の方にいでもいるのかと思い、工事中の巣にお邪魔した。複雑に入り組んだ、巣の中を歩き回りアリを探した。
そして、アリを見つけた。
「おや。キリギリスさん。お久しぶりです」
あの時のアリは巣の奥にいた。それも豪華な部屋にだ。あの弱々しい声しか出なかった彼は野太い声でキリギリスを出迎えた。
「これはいったい」
「あの後、女王アリ様に褒められまして。功績を称えられ、貴族アリ達の財産と地位を与えられたのです。おかげで、このように立派な部屋で暮らせるようになりました。もうあんな汚らしい雑居房のような部屋にいる必要はないのです」
アリは随分と偉そうな口調で言った。
「おい、お茶を持ってこい!」
アリが粗暴な声を上げ、手を叩くと元々、この部屋の主だった貴族アリは覚束ない足取りでお茶を運んできた。
「さあ、飲んでください。動物の皮からとったお茶です。美味しいですよ」
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