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「あのね、しーくん。実は……」
ぼくは、次の言葉を待った。しかし、彼女はそこで結局、口を噤んでしまう。そしてやがて笑みを浮かべると、また、それを言った。
「Xはね、すべてを持っているの」
「だからエックスって、なんなの、みーちゃん?」
彼女は首を振るう。
「しーくん、ここからは、許される質問は、一日に一回までだよ。だからそれは、慎重に検討しなきゃだめ」
「どういうこと? 質問しちゃダメなの?」
彼女は頷く。
「そう、ダメ。あのね、しーくん。わたし、やっぱり一度にすべてを話すのは無理そう。だからね、少しずつ、話していきたいの。それで、今からするその話の中心人物は、Xなの。誰でもない、X。そう仮定して、話していきたいの」
瞳を潤ませる彼女。
そんな様を見て、ぼくは、なんとなくだけれど、彼女の言いたいことがわかった。つまり、『わたしは』と言うのはあまりに辛いから、それほどに最悪なことだから、せめてそれをせずに話をしたい。
「うん、そういうことなら……わかったよ、みーちゃん」
「ありがとう」彼女は、微笑んでから続ける。「これから、この夏祭りが終わるまでの三日間で、三つに分けて、わたしはぜんぶ、しーくんに話すよ。それでしーくんは、その日話した内容について、一つだけ、わたしに質問する。その結果、最後にわかってもらえるかどうかは、しーくん次第。それで、いい?」
ぼくは了承した。そして、みーちゃんの為にも、彼女の悩みを理解し、それで力になろうと心に決めた。
「ふふ」彼女は不思議な表情をした。悲しげで、けれど嬉しそう。そうして、話を再開する。「あのね、Xはね、とっても恵まれているの。それで、すべてを持っているの」
うん、とぼくは相槌を打つ。この話はみーちゃんの悩みについての話なのだ。だからXも当然彼女のことなのだろう、と予想した。
事実、あの家を見れば、彼女が恵まれていて、すべてを持っていることにも頷ける。
「そしてYは、そんなXを愛しているの」
「『ワイ』? Yって……」
またよくわからない人が出てきたな、とぼくは思った。
「でね、そのYは……」彼女は告げる。「Xを憎んでいるの」
「ど、どういうこと? さっきは愛しているってみーちゃん言ってたよ?」
「愛しているけれど、憎んでいるの。しーくんには、そういう感情って、ない?」
「ないと思うよ」
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