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「ふふふ、しーくんのお父さんって、どんなひと?」
ぼくのお父さんは、数学者だ。大学で、教授をしているって、以前に聞いたことがあった。
「そう、立派な方なのね。しーくんはお父さんのこと、好き?」
「うん、たぶん」
「そうなのね。でも、それでも時々、お父さんのこと嫌いになることも、あるでしょう?」
「うん、ある!」ぼくはそう言って、それでハッとする。彼女の言ったことの意味が、わかった気がした。
「そういうことよ」
彼女も、そんなぼくを見て、首肯した。
「ねえ、Yは、男なの? 女なの?」
ぼくは、そう訊ねた。彼女は『その質問でいいの?』と瞳をくゆらせる。それに頷きを返すと、彼女もまた首を縦に振り、そうして答えた。
「Yは、女だよ」
「そっか」
「うん、そう。これで、今日の分は終わり。残りはまた、明日話すね」
彼女は立ち上がる。
その姿は、木々の間をすり抜けて差し込んでくる月光で、怪しく揺らいでいた。体中の汚れと、傷が、不気味に浮かび上がっている。
「ねえ、みーちゃん。今日も……一緒に帰ってもいい?」
「うん、いいよ。ありがとう。しーくん」
そう言って、嬉しそうに笑う彼女と、お城まで歩いた。門の中で手を振る彼女にまた振り返して、それで、ぼくは家に向かった。
彼女のその手についている切り傷が、いやに視界にこびりついていた。
お祭りなんかに、行く気にはなれなかった。
家に帰って、お父さんの膝の上でテレビを見た。不思議と幸せを感じた。
それで、みーちゃんは、今頃、こういうことが出来ているのかな? って、そう不安になった。
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